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祭りが結構早い時間に終わる時もしばしばあるもので、そんな時には仲間とちょっと飲みに出か ける約束などしてしまい、家に帰るのが遅くなる時もあるものだ。 外に飲みに出掛けてかなり盛り上がってる頃に突然、携帯電話が鳴りだした。でてみると家からである。 何かにおびえている様子で、友人との楽しい時間を過ごしていた私を一気に不安にさせる口調であった。 『早く、早く帰ってきてよ!今すぐに!』『おいおい、ちょっと待てよ。』『いいから早く!』 何が起こったというのか、かなりあせっている様子でより一層に私を不安にさせる。 しどろもどろする中学一年の長女が妻に電話を代わり、妻は『早く、早く!』の連発である。 とりあえず妻を落ち着かせながら内容をよくよく聞いてみると、何と事もあろうにゴキブリが出たので今すぐ私に 家へ帰って来いと言うのであった。 私はあきれ果ててしばらくの間、ものが言えない状態であった。たまたま近所の店で飲んでいた事もあり、とりあえず 友人に席を離れる事を伝えると友人はビックリしている様子で、何事が起こったのかと私に尋ねる。 まさか『家にゴキブリが出たのでこれから退治に行って来る。』なんて事は男の立場から、いくら友人が子供の頃からの 幼馴染みとはいえ口が裂けても言えるわけがない。そこは言葉を濁し、何だかよくわからないような素振りをして 一時その場を退席した。 もちろん残った友人は、あまりに急な事態だったので私の家に何か緊急事態が起こったのだと思うしかなかったの だろう、私を見送る姿もかなり心配そうな様子であった。 そうこうしながら15分程で家に帰ってみると、家族全員が部屋の隅にかたまり顔を引きつらせながらつま先立ちをしていた。 そして、私の顔を見るやいなや全員で正面から顔をそむけながら一方向を指差している。 一番に情け無かったのは、その中には家族の中で私の他に唯一の男である我が息子が、妻のお尻の後ろに半分隠れながら皆と一緒に指を 指していた事であった。 いくら小一の息子とはいえ4人兄弟の中でたった一人の男である。そこはひとつ、ゴキブリに向かってスリッパの 一つも振りかざして、兄弟たちの中で自分だけは男であるという証を女共に見せつけてやって欲しかった。 しかし、愛する息子に対する父親の希望と現実はさにあらず。去年カブトムシをもらって飼育ケースで飼おうと言ったときも、 もらってきた当の本人がカブトムシのツノにさえ触れる事も出来ず、ただケースに入った姿を眺めているだけであった事を思い出す。 『わかった、わかった。今、退治してやるから!』と、ゴキブリの所在を探してみると、戸棚の脇に・・・すでにヒクヒクと ゴキブリはまさしく虫の息であった。殺虫スプレーを散々かけられて追いまわされた後という様子であるのだ。 最後の処理が出来なくて私が呼ばれたのかと思うと、なおさらに腹立たしいやら情けないやら。父親の威厳も、家長としての威厳も、 ましてや男としての尊厳も何もあったものではない・・・、と言いたいところではあるのだが。 彼女たちからしてみれば、それが男としての『価値』らしいのである。 |